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明細書を書くに際して

 ここでは、これから明細書を書こうとしている方、或いは作成された明細書をチェックしようとしている方に、注意すべき点や配慮すべき点を幾つか挙げてみます。良い明細書を作成する上で少しでもお役に立てれば何よりです。

 なお、以下の説明では、専ら機械系の明細書を念頭としています。また、独善的な部分もあるかと思いますので、明細書を作成する際、或いはチェックする際の参考としてご考慮願います(是非、特許庁HPで審査基準等を参照することを願います)。

明細書の作成に際して

これから明細書を書く人にとって参考となるのは、その分野の公開公報や、過去に出願した明細書(公開前の明細書)等になると思います。

 そのような公開公報等を何件か読むことで、明細書の記載の流れを掴むことができます。また、過去において、関連する出願などが存在していれば、明細書を作成する上で参考になるでしょう(いわゆる下敷きとして使用することもできます)。

 なお、特許庁のHPにおいて、明細書の出願様式をダウンロードすることが可能です(平成21年1月から出願様式が変更されています)。

 平成21年1月からの出願様式に従えば、基本的な記載の流れは、①発明の名称、②技術分野、③背景技術(従来の技術)、④発明が解決しようとする課題、⑤課題を解決するための手段、⑥発明の効果、⑦図面の簡単な説明、⑧発明を実施するための形態、⑨産業上の利用可能性、となります。

 このため、明細書の出願様式に沿って、過去の明細書等を参考にしながら記載していくことで、取り敢えず、明細書は作成できます。初めて明細書を書く人(技術者)に対しては、発明のポイント(課題を認識させ、その課題を解決するのに採用した技術的特徴など)を指摘した上で、「あとは、これを参照しながら作ってみてね」と同一技術の先の明細書などを渡すのは良くあることです。

特許明細書に関する基本的な事項

(1)特許明細書の二面性

 明細書を作成する上においては、とりあえず2つの場面を考慮しておく必要があります。
一つは、特許権を取得するまで特許庁が特許要件を備えているか否かを判断するわけですが、その判断に耐え得るだけの記載になっているかどうか、であり、もう一つは、特許権を取得した後、第三者が実施する行為(製造品など)を効果的に排除できるような記載になっているかどうか(特許の技術的範囲が広いか)です。

 明細書には、出願してから、時系列的に上記したような二つの場面(二面性)があり、前者の場面では、出願人サイドは、例えば、審査官が挙げた公知技術との相違を指摘しながらクレームを絞り込む(減縮補正)作業を行い、後者の場面では、出願人サイド(権利者となっています)は、できるだけ広い範囲が特許発明の技術的範囲であることを主張すると思われます。このため、この二面性については、時として、相反関係になることもあり得ます(侵害訴訟において、広い技術的範囲を主張する一方、無効理由の抗弁がされた場合、クレームはそのような公知技術とは異なっている、或いは含むものではないとの主張)。

 出願中における特許要件の判断について、意見書、補正書を提出する際には、権利化後に技術的範囲の解釈が狭くなってしまうような主張等については、極力、避けるべきであり、権利化前の段階であっても、常に権利化後の状態については、想定しておく必要があるでしょう。
また、審査段階における補正は、明細書の記載事項の範囲で行うという大原則(補正により、出願時に書いていない新規事項を追加するのは許さない)があるため、明細書を作成するにあたっては、上記の二面性を考慮しつつ、補正する際に柔軟な対応ができるようにしておくことが求められます。

 なお、特許庁に意見書や補正書を提出する場合において、その補正が新規事項に関して疑わしいと感じたならば、審査基準(特許庁のHPからダウンロードできます)を十分に検討することをお勧めします。

(2)要旨認定と技術的範囲

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要旨認定とは、新規性や進歩性などの特許要件を判断する際に、基準とされる発明の要旨を画定する作業と捉えられ、すでに周知のように、リパーゼ最高裁判決で示されたとおり、これは特許請求の範囲の記載に基づいてなされます(これに反する判例も見られ確実とはいいきれませんが…)。すなわち、特許要件の判断時における要旨認定は、特許請求の範囲の記載に基づいて、その記載文言が通常有する意味においてなされるのであり、技術的意義が一義的に明確に理解できない、とか、一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載から明らかであるなどの特段の事情がある場合を除き、詳細な説明の記載は参酌されない、というものです。

 このため、特許要件を判断する場面では、「特許請求の範囲における請求項(クレーム)の記載のみが考慮され、詳細な説明の記載は考慮されない」、との原則があることを意識して請求項を作成する必要があります(特許要件を判断する場面において、発明の要旨を認定する際に、詳細な説明の記載を参酌したような判例もあるようですが、このようなケースは稀と考えた方が無難であり、明細書を作成する上では上記のような原則である、ということを念頭にしておいた方が間違いないでしょう)。

 したがって、意見書の提出時、拒絶査定不服審判における理由補充時、拒絶審決の取消訴訟のような場面において、クレームの記載から外れたような主張(例えば、クレームの記載それ自体が明確であるにも拘わらず、詳細な説明の記載に基づいて構成要件を特定したような主張)をしても、判断する側(審査官、審判官)は、あくまでもクレームの記載に基づいて発明を特定(要旨認定)し、そして、公知技術との一致点、相違点を認定してしまう、と考えておいた方が良いでしょう。

 このように、特許要件の判断時では、クレーム用語は、可能な限り広く解釈される、と考えておいた方が良いのですが、ただ、あまりにも広くしすぎると、新規性や進歩性に引っ掛かる可能性が高くなり、特に、新規性がない、との拒絶理由になれば、補正時において、第17条の2第4項(シフト補正)を考慮する必要も生じます。また、クレームをあまりにも広く書きすぎると、後述する実施可能要件やサポート要件にも違反し易くなりますので、留意が必要になります(明細書を作成する際、ここが難しいところの一つでしょう)。

 なお、審査基準の第36条第6項第2号の部分では、クレームに記載の用語について、それが明細書や図面中に定義又は説明がされていれば、その用語が明確、不明確に関係なく参酌される旨、記載されています(この点、上記の最高裁における説示と審査基準の間で多少の齟齬が感じられるところです)。

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一方、権利化後の侵害訴訟等の場面において、特許発明の技術的範囲を定める際にも、発明の要旨を認定する、という表現が用いられます。この場面では、特許法第70条第1項の記載のとおり、技術的範囲については、特許請求の範囲の記載に基づいてなされますが、その記載の用語の意義については、明細書の記載や図面が考慮されるでしょう(同第2項)。なお、これに加え、出願時における技術水準、公知技術や周知技術、更には、出願経過情報等も参酌されますので、たとえ、クレームの記載用語が明確であって広く書かれていたとしても、実際の侵害訴訟の場面などでは、クレームの用語が制限的に解釈される可能性があります。

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上記のように、クレームに記載された発明を解釈する際、特許庁が特許要件を判断するときに発明の要旨を認定する場面と、侵害訴訟の場合等、特許発明の技術的範囲を解釈するときに発明の要旨を認定する場面では、ずれが生じると考えられます。

 すなわち、特許要件を判断するに際しては、クレームの記載用語は、明確であれば、詳細な説明における実施形態の構成に限ることなく、最大限広く解釈される可能性がある一方、特許発明の技術的範囲を解釈するに際しては、クレームの記載用語は、詳細な説明や図面に基づいて限定的に解釈される可能性があります。

 構成要件を作用的な表現にしたり、上位概念化しておき、それを明細書の中で実施形態として具体的に記載していたとしても、その記載したもの以外の公知技術(例えば、クレームに記載されているような作用が生じる全ての公知技術など)も審理対象となって、予期せぬ引用文献が挙げられる可能性があります。
例えば、クレームの構成要件において、「…柔軟性を有する○○部材と、…」と記載して、詳細な説明の中で、柔軟性を有するものの具体例として、a,bを挙げていたとしても、それ以外に柔軟性を有しているであろうあらゆるものが、特許要件を判断する上で、公知技術として考慮されるでしょう(尤も、「柔軟性を有する」という表現は明確性に欠く、といった拒絶理由が通知される可能性もあります;特許法第36条第6項第2号)。

 一方、権利範囲を特定(発明の技術的範囲を定める)するケースでは、明細書の記載や図面が参照されることとなり(特許法第70条第2項ですね)、クレームでは、一見広いような記載であったとしても、実際の技術的範囲は、明細書の記載の範囲内(開示範囲内)に限定されてしまう可能性があります(発明の課題、出願時における公知技術や出願経過情報等も参照されるでしょう)。
上記した事例でいえば、柔軟性を有する部材として、第三者が、明細書において開示も示唆もない「X」という部材を実施した際、それは、本発明の技術的範囲には属さない、との判断も有り得るわけです(「X」という部材の特異性や効果などが考慮され、専門家による鑑定や特許庁の判定においても、おそらく見解が分かれるでしょう)。

 特許要件の判断においては、上記のように、クレーム記載の表現に基づいて発明の要旨が特定されるため、特許になった際には、その範囲は特許要件の審査においてサーチ済みなので、同じようにクレームの記載に基づいて技術的範囲を特定しても良さそうですが、現実として、技術的範囲については、そのようにはいかないと考えられます。
なお、出願時に発明者が認識できていなかったものや、出願後に新たに出現したものまで権利範囲に含ませてしまうのは、過剰な保護になってしまいます。

 特許後における「技術的範囲」を判断する場面では、審査段階で特許要件を判断する場面において画定される「発明の要旨」よりも狭くなる(ずれが生じる)可能性がある、ということをまず念頭に入れて明細書を作成すべきです。できれば、特許要件を判断する際のクレーム記載に基づいた発明の要旨認定、及び権利化後における技術的範囲を定める際の明細書の記載を考慮した要旨認定(第70条)について予め配慮しておき、できるだけずれが少ないような明細書の作成を心がけるのが良いと思います(特許要件を判断する際にクレーム記載のみで要旨認定が広くされても、明細書の記載が充実していれば、拒絶理由時に次第に絞り込んでいくことができますよ)。

(3)記載要件について(実施可能要件、サポート用件、明確性)

 ところで、明細書を作成する際には、それが所定の記載要件に合致していなければなりません。もちろん、公知技術に対して新規性があり、かつ進歩性があるように明細書やクレームを作成する必要はありますが、これは専ら、その発明のポイントや、従来技術の存在によって左右されることですから、まずは、発明者が完成した発明に関し、記載要件を満足するように明細書を作成する必要があります。

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実施可能要件(第36条第4項第1号)について

 クレームは、発明者が認識した従来技術の課題を解決するための必要最小限の構成要件を記載し(皆さん悩まれる難しい部分です)、できるだけ広範囲に権利が取得できるように、上位概念化した表現を用いることになります。

 この場合、明細書の「発明の詳細な説明の欄(専ら発明の実施形態の部分)」には、クレームに記載された発明が、具体的に、当業者によって、出願時の技術常識に基づいて実施ができる程度の記載がなされていなければなりません(第36条第4項第1号ですね)。

 審査基準によれば、発明の詳細な説明には、「請求項に係る発明をどのように実施するかを示す「発明の実施形態」のうち特許出願人が最良と思うものを少なくとも一つ記載すること」が必要とされています。
また、審査基準では、実施可能要件に違反する例として、以下の2つの類型を挙げています。

  • 発明の実施の形態の記載不備に起因する実施可能要件違反
  • 請求項に係る発明に含まれる実施の形態以外の部分が実施可能でないことに起因する実施可能要件違反

 前者の違反例として多いのは、審査基準にあるように、具体的な技術的解決手段が、抽象的、機能的に記載されているだけであり、出願時の技術水準に基づいても当業者が実施できないような場合、発明を特定するための事項に対応する個々の技術的手段相互の関係が不明確であるような場合、更には、製造条件(数値設定など)が不明である等の理由により、当業者がクレームに係る発明を実施できない場合などが該当します。
例えば、クレームに「負荷が加わると色が変化するテープ」としても(作用的な記載です)、負荷が作用したことで色が変わる仕組みが明細書内に明確に開示されていないと、当然ながら、実施可能要件に反することになります(当業者はどのようにそのテープが作れるかわからない)。このように、クレームが作用的になると、実施可能要件が怪しくなってきます(発明者や明細書作成者が陥り易いところです)。

 また、後者の違反例として多いのは、審査基準にあるように、クレームにあまりにも広い上位概念化した表現を用いた場合において、その上位概念化した表現に含まれる態様の中には、詳細な説明に記載された実施形態以外に、当業者の技術常識では、実施できないようなものも含まれてしまう、といったケースが該当するでしょう。

 前者については、クレーム記載の発明を、当業者の視点にたって実施ができる程度に記載する、ということを心がければ該当してしまうことは無いと思われますが、後者については、クレームをできるだけ上位概念化し過ぎることを考慮した際に陥り易いことがあります(第36条第4項第1号を理由とした無効理由でも指摘されるところです)。
すなわち、通常、発明者は、ピンポイント(実施例)で発明を完成することが多く、明細書の作成者は、当然、できるだけそれを上位概念化することを考えます。そして、広い上位概念(表現)を考えて、それをクレームに記載し、その上位概念の範囲に含まれる実施形態(発明者がピンポイントで考えた実施例)を詳細な説明に記載しておくと、取り敢えずは、「詳細な説明には、当業者が実施できるようにクレーム記載の発明が具現化されているな」と思ってしまいます(36条4項第1号の問題はクリアしているな、と思い込んでしまいます)。

 ところが、審査の段階で第36条第4項第1号違反を指摘されたとき、上位概念化した表現の不備に初めて気付くことがあります。すなわち、詳細な説明には、上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施形態のみが実施可能に記載されている場合であっても、その上位概念に含まれてしまう他の下位概念が存在しており、それが当業者の出願時の当業者における技術常識を考慮しても、実施できる程度に明確になっていないようなケースでは、第36条第4項第1号に違反する可能性があります(このようなケースでは、出願時の技術常識に基づいて発明の課題を解決していないと判断されれば、サポート要件に反している可能性も考えられます)。

 ただ、この点は、審査段階では、見過ごされてしまうケースもあると思われます。審査官は、いわゆる当業者そのものではなく、当業者の視点で判断する立場にあることから、クレームに広い概念の表現があっても、実施形態の説明の欄で、それがとりあえず実施できるように具現化して記載されていれば、一見して何等不備はなく、そのままOKと判断してしまうのは、十分有り得ることでしょう。

 ともあれ、クレームの記載(構成要件)があまりにも広い上位概念で、実施形態が一つといったような明細書を作成すると、それは第36条第4項第1号違反になる可能性が高くなりますので、そのようなケースでは、他の実施形態などについても、十分考慮する必要があります。

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サポート要件(第36条第6項第1号)について
請求項に係る発明は、開示代償として独占排他権を付与するものであることから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはなりません。審査基準においても、発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開していない発明について権利を請求するためこれを防止するとあります(サポート要件の基本的な考え方です)。

サポート要件に違反する例として、審査基準は、4つの類型を挙げています。

  • (i) 請求項に記載載された事項と対応する事項が、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない場合
  • (ii) 請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明りょうとなる場合
  • (iii) 出願時の技術水準に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
  • (iv) 請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合

 通常、明細書を作成するにあたって、発明のポイントを捉えて上位概念化したクレームを作成した際、そのクレーム記載の文言を、実施形態に逐次反映させること(クレーム記載の文言が実施形態の記載に反映されていること)を心がけていれば、上記(i)(ii)に該当することは、そうは無いと思われます。

 ただ、留意すべきは(iii)(iv)、特に(iv)となるでしょう。これは、上記した実施可能要件と同様、クレームをできるだけ上位概念化し過ぎることを考慮した際に陥り易いことがあります(第36条第6項第1号を理由とした無効理由でも指摘されるところです)。
上記(iv)のケースでは、詳細な説明において、上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施形態のみが実施可能に記載されている場合であっても、その上位概念に含まれてしまう他の下位概念の構成が、当業者の技術常識を考慮した際に「その発明の課題」を解決していない、ようなものを含んでいれば、それは第36条第6項第1号に違反する可能性があります(このようなケースでは、当業者が出願時の技術常識に基づいて実施することができなければ、上記の実施可能要件に反している可能性も考えられます)。

 上記した実施可能要件と同様、クレームの記載(構成要件)があまりにも広い上位概念で、実施形態が一つといったような明細書を作成してしまうと、それは第36条第6項第1号違反になる可能性が高くなりますので、そのようなケースでは、他の実施形態などについても、十分考慮する必要があります。

 なお、上記(iii)のケースは、明細書作成時において判断することが難しいと思われます(それ程、神経質になる必要は無いと考えます)。これは、審査基準の留意事項として、「請求項は、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができる。発明の詳細な説明に記載した範囲を超えないものとして拡張ないし一般化できる程度は、各技術分野の特性により異なり、妥当な範囲は事案毎に判断される。この判断にあたっては、特定の具体例にとらわれて必要以上に制限的にならないよう留意する。」とあることからも理解できます。
審査基準は、この留意事項と共に、「出願時の技術水準を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された内容を請求項に係る発明の範囲に拡張ないし一般化することができないと判断される場合は、審査官は、その判断の根拠を示すことにより、拡張ないし一般化できないと考える理由を説明する。」とありますので、この点に関しては、審査する側によって、根拠及び理由が示されることになります。

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クレームを作成する際の留意事項
明細書を作成するに当たっては、発明者が発明と認識したものを文章として表現する必要があります。明細書を作成する実務者は、広い権利が取得できるように、構成要件をできるだけ絞って、上位概念化したクレームを作成することでしょう。

 ただ、クレームを上位概念化すればするほど、新規性や進歩性がないとの拒絶理由がかかり易くなるのであり、また、上位概念化したにも拘わらず、実施形態の記載が乏しいと(上位概念化したクレームと、実施形態との間の隙間が大きい)と、上述したような実施可能要件やサポート要件に違反する可能性も高まってきます。

 ですので、発明者と打ち合わせする際、明細書を作成する際、或いは明細書をチェックする際など、上位概念化したクレームと実施形態との間の隙間を可能な限り埋めることや、クレーム記載の用語へ気配りすることが重要となります(実施可能要件やサポート要件に違反していることを見出せることもあります)。

 折角、広い上位概念のクレームを作成して特許権を取得したにも拘らず、技術的範囲を画定する際に、それがピンポイント的に実施形態の構成のみに限定されるような解釈をされてはもったいないですから…。

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明確性について(第36条第6項第2号)について
特許を受けようとする発明(クレームに記載の発明)が明確でないと、第36条第6項第2号に該当するとして拒絶されます(無効理由にもなっています)。

 実務上、明確か不明確かについては、審査官によって判断が変わる部分であるともいえます。例えば、クレームの中に明確性を欠く用語(例;「近傍」、「若干」「僅かに」等の明確性を欠く用語)があっても、詳細な説明や図面から、それが明確であると判断されれば、拒絶理由を提起しないケースがある一方、要旨認定はクレームの記載のみでなされる、との原則を考慮すれば、それは不明確である、と拒絶理由を提起するケースも有り得ます。

審査基準には、第36条第6項第2号に違反する類型として、下記のものが挙げられています。

  • 請求項の記載自体が不明確である結果、発明が不明確となる場合
  • 発明を特定するための事項の内容に技術的な矛盾や欠陥があるか、又は、技術的意味・技術的関連が理解できない結果、発明が不明確となる場合
  • 特許を受けようとする発明の属するカテゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明)が不明確であるため、又は、いずれのカテゴリーともいえないものが記載されているために、発明が不明確となる場合
  • 発明を特定するための事項が選択肢で表現されており、その選択肢どうしが類似の性質又は機能を有しないために発明が不明確となる場合
  • 範囲をあいまいにする表現がある結果、発明の範囲が不明確となる場合
  • 機能・特性等により物を特定する事項を含む結果、発明の範囲が不明確となる場合
  • 製造方法による物の特定を含む結果、発明の範囲が不明確となる場合

 ただし、たとえクレームの記載がそれ自体で明確であっても、明細書又は図面中に、請求項の用語について定義や説明があればクレームとの間で矛盾等がないか判断され、矛盾が生じていれば不明確と判断されることもありますので注意が必要でしょう。逆に、クレームの記載がそれ自体で明確でなくても、明細書又は図面中に、請求項の用語について定義や説明があり、それを考慮した結果、発明が明確に把握できれば、クレームの記載は明確と判断される可能性もあります。

 ところで、一般的な技術用語のみを用いて発明が特定できれば、それに越したことはないのでしょうが、常に、「クレームの記載表現のみで発明を明確に特定しよう」とすると無理が生じることも考えられます。

 上述したように、発明の要旨認定はクレームの記載のみでなされる、という原則があるため、明細書作成者によっては、そこにこだわってしまう可能性もあるのですが、そこまで固執する必要はないと思います。
技術的な意味が不明、とか、構成要件ごとの関連性が不明確、とか、構成要件相互の関係を考慮すると明らかな矛盾がある、など、一見して不明確なものは別ですが、クレームに記載する用語として、明確にできる表現や技術用語がない(適切な用語が思い浮かばない?)、形容詞的な表現を使わざるを得ない、或いは、明確化しようとすると、非常に助長な文章や表現になってしまう、といったケースもあるでしょう。また、クレームの記載のみで、全てを特定しようとすると、かえって縛りがかかってしまい、権利範囲を狭くしてしまう可能性も考えられます。

 このため、例えば、明細書の詳細な説明の欄において、特許請求の範囲に記載の「○○○」とは、×××を意味しており、ここには、aといった態様の他、a1、a2のようなものが含まれる…、等としておくことで、クレーム内でこれらを全て含ませるような助長な表現を避けることも可能でしょう(必ずしもこれが良い方法とはいえませんが)。

 発明を特定するための事項は、クレーム記載の表現のみで把握できるようにしなければならない、といったことに必ずしも縛られる必要はないと考えます。明確な技術用語がない、とか、簡潔な表現がない、或いは思い浮かばない、といったようなケースでは、明細書の詳細な説明において、クレームに記載された用語について具体的に定義する方がかえって良いとも思えます。

 なお、クレーム記載の用語で、形容詞的な表現、作用的、機能的な表現などを用いても、それが明細書や図面を通して明確に把握できれば特許を得ることは可能かもしれませんが、係争事件における技術的範囲を定める場面において、第三者の製品が含まれるか否かを判断する際に、そのような表現に争いが生じてしまう可能性があります。このため、クレーム作成に際しては、「あなたが作っている製品はこの中に含まれる」ということが容易に指摘できるように、たとえば定量化できるような表現、定義等についても検討すべきでしょう。

特許明細書の書き方(参考として)

 ここでは、上記した特許法第36条の記載要件を満足することを考慮しつつ、明細書を作成する上での注意点を幾つか挙げてみます。なお、他人が書いた明細書をチェックする場合、作成者それぞれに個性があり、自分の思っている表現とは異なるケースが多々あります。第36条の要件に反する、権利範囲が狭く解釈されてしまう、内容が不明確である、等の理由を具体的に指摘できれば修正、加筆等すべきですが、それ以外については(表現の仕方など)あまり細かく手直し等しない方が良いのではないでしょうか(書き手の個性ですから)。

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どこから書くか
明細書を書くに際して、先にクレーム(請求項)部分を書く人、先に実施形態を書いた後にクレームを書く人(最後にクレームを書く人)がいると思います。
明細書の記載要件の並び(平成21年1月以降)では、クレームの欄が最後になっているため、これから明細書を書く人にとっては、実施形態を書いた後にクレームを書くケースもあるでしょう。

 その良し悪しに関する詳細な議論は別として、個人的には、実施形態よりもクレームを先に書くのが良いと思っています。詳細には、実際の発明が成される行為の流れに沿って、従来の技術を書き、その課題を書き、そして、その課題を解決するための手段(発明のポイントとなるクレーム)を書くようにしています。

 クレームを先に書くようにすると、発明の本質部分(課題を解決するための上位概念化した構成要件)を予め特定できるので、実施形態において、予め上位概念化した構成要件を展開し易くなります(私の場合)。また、実施形態を書いていく上で、もう少しクレームは広い方が良い、と感じたら、その時点で、クレーム部分(クレームの記載表現等)を修正すれば良いでしょう。いずれにしても、最初に発明の本質を特定してしまえば、その下位への展開がし易くなります。

 先に実施形態を書いて、後に上位概念化したクレームを作ると、上記した実施可能要件やサポート要件を満たさなくなる可能性がある、と感じるのは私だけ?

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従来例(従来技術)について
発明者サイドで、予め公知文献を見出しており、その公知文献に開示された技術の課題を把握した上で本発明を完成したものであれば、従来技術の部分の記載については、それ程、苦になりません(そのまま、その公知文献を挙げれば良いだけです)。

 ところが、発明者が漠然と発明した後で、その発明に関する公知文献を探すときに、何を公知技術にするのか、について多少の問題が生じてしまいます。

 従来技術は、当然、本発明がされた理由となる問題点(課題)を含んでいます。すなわち、本発明が成される理由となった、具体的な課題が存在するのであり、本発明は、その課題を解決するための構成要件を必ず含むことになります。

 例えば、従来技術にaと課題があり、その課題を解決したのが本発明であるのなら、aという課題を解決するための構成要件A(発明として、必須の要件となります)が存在する筈です。
したがって、従来技術をたくさん挙げて、色々課題を挙げて行くと、本発明は、各課題を解決するための構成要件が必然的に増えることになります(公知技術1にはa,公知技術2にはb,公知技術3にはc,公知技術4にはdという課題があれば、本発明の構成は、それらを解決する構成要件A,B,C,Dが必須の要件となってしまいます)。

 従来技術をたくさん挙げれば挙げるほど、本発明は、それらを全て解決する、という論理となりますので、これらを全て構成要件にすれば、発明の範囲(技術的範囲)は狭くなってしまいます。このため、発明の本質部分がどこにあるかを捉えておかないと、何が本発明において必須の要件となるか(必要最小限の要件)、或いは、どの部分を権利化したいのかが不明になってしまいます。

 公知文献に関しては、予め本発明の本質部分(権利として欲しい必要最小限の部分;必須の要件)を把握し、その要件を具備していないか満たしていない技術(これが課題となります)を開示したものが特定できれば、必要最小限で良いでしょう(似たようなものが多数あれば、代表して一つ挙げればOKでしょう)。

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発明の効果について
発明の効果の部分については、その発明(上位概念化した構成要件から特定される発明)の効果を記載すればOKです。このため、発明の課題の部分の裏返しの記載になると思います。

 ただ、間違っても、上位概念を具現化している実施形態の効果については記載しないことです。これは、審査段階で問題になることはさほどないと思いますが、侵害訴訟など、発明の技術的範囲を特定する段階において、本発明は、「発明の効果の部分に記載された○○○という効果が得られるような構成に特定されるのであり…」などの主張が成される可能性があります。すなわち、実施形態特有の効果を、誤って本発明の効果と記載してしまうと、折角、上位概念化した構成要件が、実施形態に開示されている構成に限定して解釈される危険性もありますので要注意です(効果をたくさん書きたがる人もいるようですが、権利化された後、クレームが限定して解釈されないように留意しましょう)。

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発明の実施形態について
発明の実施形態の部分は、具現化した発明の一例を記載する部分であり、当業者が読んだ際、その発明を実施できるように記載しておく必要があります。明細書を多数書く人にとっては、明細書毎に行き当たりばったり的に書くのではなく、自分なりのスタイルを確定した方が楽になると思います。
以下、幾つかの留意点をあげてみます。

(i)流れを決めてしまう(スタイルを確定する)

 自分なりに全体としての流れをある程度決めておけば、いかなる案件でも実施形態をスムーズに書くことができるでしょう。
例えば、最初に構成を記載する、構成を記載した後は、その動作を記載する、そして、その構成によって得られる効果(発明の効果に加え、その実施例の効果)を記載する、のように、流れを決めておくことが考えられます。

 また、構成については、大きいものから順に小さいものに向けて記載するのが良いでしょう。例えば、大型建設機械であれば、基台があり、その基台には駆動部が設けられており、駆動部にはアームが設置されており、アームの先端には、フックがある、のように、大きな構成要素から順に、小さい構成要素に向けて書いて行くと、構成がわかりやすくなります。
この際、各構成を書く段階で、構成同士の作用等を記載する必然性もあるでしょうが、ここをあまり詳しく書きすぎると、大きな流れである装置全体の動作を記載する部分と重複することがありますので、構成を書くときに留意が必要でしょう(明細書全体で、重複記載が多数あると、読み難くなったり、しつこい感じがあります)。
 なお、クレームには、上位概念化した構成要件があるため、その用語との関係性についても触れておく必要があります。例えば、「○○○(クレーム記載の用語です)として、本実施形態では、例えば×××を用いている…」のように記載すればOKでしょう。

上記した以外にも、例えば、全体構成を先に記載しておき、その後、細部構成を順に説明しても良いかと思います。

また、実施形態の部分で効果を書く際には、発明の効果に加え、その実施形態特有の効果についても記載できれば良いです。

(ii)従属クレーム等について

 従属クレームは、いわゆるその上位クレームの構成要素をより限定したり、或いは、上記クレームに付加的な要件を加えたものです。
できれば、従属クレームの構成が具現化されている実施形態を記載する際、特有な作用効果を記載しておくことが望ましいです。これは、中間処理時において、意見書、補正書を提出する際に、特許性を主張する上での根拠にもなります。

 なお、実施形態の記載事項の範囲内でクレームアップしなかった構成についても、何らかの効果が見出せれば、積極的に記載しておくのが好ましいでしょう。中間処理時において、クレームアップする際、意見書において有用性を主張することができます。

(iii)上から目線と横の展開

 実施形態を説明するに際しては、常に、上から目線で、順次下位に向けて説明しておくことが好ましいです(上位概念→中位概念→下位概念)。

 また、従属クレームは一例であり、その間を埋める記載を心がけるようにしましょう。例えば、上位クレームで構成要件Aがあり、その従属クレームとして「前記Aはaである」としたケースでは、Aをaと限定したということは、当然、Aにはa以外の物(b,c,d…)を含んでいると考えるべきです(横の展開ですね)。従属クレームで限定した以外の構成についても、何が考えられるかを常に留意しておくことで、明細書の質は向上すると思います。

(iv)図面の構成にひきずられない

 図面に開示された構成に引きずられて書くと、例えば、中間処理時など、後々、上位概念化したクレームアップができない可能性もあります。

 例えば、基端部が支持されて長手方向に棒状に延びるA部材とB部材があり、両部材の間にC部材があるとしましょう。図面では、C部材は、A部材とB部材の基端部側に設置されています。

 上記のような構成を開示した図面を手渡されて明細書を記載する際、よくありがちなのは、「A部材とB部材の基端部側にC部材が設置されている」と記載してしまうことです(丁寧に説明することを心がけると、良くやってしまうケースです)。

 このような記載において、後にC部材についてクレームアップする際、「A部材とB部材との間に設置されるC部材…」とするのは多少問題があります。
出願人としては、C部材の位置を特定したくないために、前記のようにC部材の存在のみを特定したいところですが、明細書には、「基端部側」にあるとの記載があるだけで、「C部材はA部材とB部材との間に設置されている」との直接的な記載はありません(新規事項の問題が出てきますね)。

 本来であれば、明細書を記載する際、「A部材とB部材との間にはC部材が設置されている。このC部材については、設置位置は限定されないが、図に示す構成では、A部材とB部材の間で基端側に設置されている。…」のように、常に、上から目線で書くことを心がける必要があります。

その他

 上記した例は、一例であり、明細書を書くに際しては、上記以外にも様々な注意点や留意点があるでしょう。また、特許実務を長く続けて行けば、中間処理、審判などを経験することとなり、これらを経験することによって、色々な書き方や注意点も見えてくるはずです(中間処理をする際、自分が書いた明細書について反省することは多々あります)。

シグマ国際特許事務所