新規事項について
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明細書を補正するに際しては、「出願当初の記載事項」の範囲内で行うという大原則があります(第17条の2第3項)。
「出願当初に記載されている事項」については、明細書内に記載された表現そのものとなる事項(明示的に記載されている事項)に加え、いわゆる自明な事項も含まれます。
平成22年6月1日以降の審査で適用される審査基準によれば、基本的な考え方として、出願当初の明細書に記載した事項とは、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」とされています。
すなわち、新たな技術的事項を導入するものでなければ、その補正は、新規事項と判断されない、ということです。
「新たな技術的事項」であるか否か、特に、それが自明な事項に該当しているか否かについては、拒絶理由通知がきたときの補正をする際に判断が難しいところです(おそらく人によって判断が分かれると思われます)。
改定された審査基準によれば、「自明な事項」といえるためには、当初の明細書、図面に記載がなくても、これに接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであり、その事項がそこに記載されていると同然であると理解できる事項、とされています。
審査基準の基本的な考え方は上記の通りですが、キーワードとなっている「自明な事項」については、画一的に線引きすることは困難であり、例えば、技術分野、周知・慣用技術(時の経過に伴って変化する)、判断者、明細書の記載内容等により変動すると考えられます。
ただ、審査、審判段階において拒絶理由通知書が送付され、それに対して補正をする際に、その補正が新規事項になるかどうか疑わしいようなケースでは、新規事項に該当しない、ということを意見書等において明確に主張することは重要となります(審査基準において要請されており、審査官によっては、拒絶理由通知書の最後に指摘しています)。
出願人としては、単に「補正によって追加した○○○は、新たな技術的事項を導入するものではない」ということを意見書において主張するだけではなく、明細書の該当する箇所、及び、審査基準等を挙げながら、その自明性について詳細に主張するのが良いでしょう。
例えば、補正した事項について、審査基準の新規事項の判断に関する事例集の中から該当するような事例を指摘しつつ新規事項に該当するものではないことを述べたり、或いは、当業者の技術常識から自明な事項であることを、公知文献などを例示しつつ、それが当初明細書に記載されているに等しい事項であることを論理的に説明するなどして、「…以上のように、補正によって追加した○○○については、明細書の記載内容から自明な事項であり、新たな技術的事項を導入するものではない」等と主張するのが良いでしょう。
審査、審判段階の補正において、「新規事項には該当しない」と明確かつ論理的に主張した上で特許されていれば、審査官、審判官は、そのような主張を踏まえて特許していることから、後に無効審判が提起されて新規事項である旨の無効理由が主張されたとしても、心証として不利に作用することはないと考えられます。
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新規事項に関し、実務上多いのは、
.明細書に記載のない事項について、周知・慣用技術である、と称して追加するようなケース、
.上位、下位概念化するケース、
.図面の記載に基づいて構成要件を抽出するようなケース、
.特定の構成要件を削除するようなケースと考えられます(このような補正は、公知技術との相違を出すため、或いは、第三者の実施品をカバーできるようにするため等、様々な思惑があるでしょう)。
.については、その技術自体が周知・慣用技術であっても、当初明細書等の記載から自明な事項でない、と判断される可能性があります。
.については、補正したことによって、当初明細書に記載した事項以外のものが含まれてしまうようなケースでは、新規事項に該当すると判断されるでしょう。
.については、明細書内に具体的な記載がなくても、図面の内容から、補正した事項以外の構成が認められない、ということが明らかであれば、そのような補正は、新規事項に該当しないと判断される可能性があります。ただ、図面に記載されている構成には一連の動きが存在しており、動作中の一態様を示しているような図面の場合、留意が必要となります。
.については、その構成要件が発明の課題を解決する上で必須となっていたり、明細書や図面に、そのような構成要件を備えた実施例のみが記載されているケースであれば、そのような構成要件を削除することは、新規事項と判断される可能性があります。ただし、そのような構成要件の一部を削除しても、新たな技術的上の意義が追加されないことが明らかな場合、補正が許容される可能性もあります。
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補正における新規事項の判断基準については、判断主体によって変わることが予想され、不確定な要素といえますが、出願時における明細書の記載内容(発明の課題の内容や、それを解決するための具体的な構成など)に左右されるところがあります。
例えば、発明の課題の捉え方、及び、その課題を解決するための必須となる構成要件の抽出については留意が必要となります。当然ですが、課題が多くなれば、それに伴ってその課題を解決するための構成要件は増えて行きます。
上記のように、出願した後の補正では、構成要件を削除することは新規事項に該当する可能性もあるため、その発明の本質的な課題を見出し、少なくとも出願時における構成要件については必要最小限に留めておく(必要であれば、将来的に、明細書の記載事項の範囲内で構成要件を付加する補正をすれば良いだけです)ことが重要でしょう。
また、明細書に記載された実施例については、あくまでも請求項に記載された発明の一例である、ということを裏付けするような記載をしたり、請求項に記載されている構成要件についての様々な態様(バリエーション)についての記載を心掛ける等、出願時における明細書作成には、留意すべき事項は多々あります。
なお、新規事項に関して、以下のような判例があります。
平成20年行(ケ)10197号では、当初明細書には、実施例の記載(一実施例とされている)、及び図面において、フレームの脚部が「回動」するという構造しか開示されていなかったところ、クレームにおいてフレームの脚部を「移動可能」とした補正は新規事項に該当するか否かが争われましたが、審決は新規事項に該当しないと判断し(無効2007-800152)、取消訴訟においても、その判断については取消事由に該当しない、とされた事例があります。この事例では、審判段階において、無効審判請求人は、審査基準の新規事項の判断に関する事例4を挙げて、本件は新規事項に該当することを主張し、その内容についても合理性のある内容(と思える)でしたが、結局、審判、及び裁判では、いずれも新規事項に該当しないと判断しています。
※本事例は、当初のクレームに「回動」という記載はなく、拒絶理由の段階で、一実施例に基づいて「移動可能」という限定事項をクレームに記載しています。仮に、当初のクレームに「回動可能」という構成要件が記載されており、補正時にこれを「移動可能」にしたとすると、新規事項と判断された可能性があります。
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発明の詳細な説明の補正において、新規事項として疑わしいようなケースでは、あえて明細書を補正する必要がなければ、意見書や、上申書等において主張するのが良いでしょう。例えば、先行技術文献の内容の追加や、発明の効果の追加の補正は、許容される可能性もありますが、無理に明細書を補正するよりも、意見書等で主張した方が無難と思われます。
なお、第36条第4項第2号の規定により、先行技術文献情報を明細書内に追加する補正は認められますが、出願した発明との対比、発明の評価に関する情報などを追加したり、先行技術に記載された内容を取り込むような補正は、新規事項となります。



