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訂正審判について

【1】

通常、成立した特許権に対して訂正審判(第126条)を請求することは、あまり無いと考えられますが、第三者が侵害製品を製造、販売等している状況にあり、実際に権利行使する(権利行使を考慮する)場合、自身の権利の有効性の調査に加え、訂正審判についても考慮した方が良いケースがあります。

【2】

実際に権利行使すると、裁判所において権利濫用であるとの抗弁がされたり(第104条の3)、或いは無効審判を請求されたり(第123条)して、訂正審判(訂正請求)を余儀なくされることは結構あることです。また、本来、無効理由が存在するにもかかわらず、特許権として成立しているようなケースも考えられ、侵害訴訟をした後、最終的に特許権が無効になってしまうこともあります。

 これらのケースでは、手間、費用、時間が無駄になることから、訂正審判を活用して、予めこのような事態になることを排除することが可能です。

 第三者に対して権利行使を考慮するに際しては、特許庁において厳格な審査を経た後に登録されたとはいえ、まず、その特許権に無効理由が存在していないか綿密に調査すべきです。特に、審査の段階で挙げられなかった公知文献は勿論、審査段階では取り上げられ難い公知事実(公然実施、業界紙、書籍、カタログ、ネット情報等)については、広範に調査する必要があります。また、第三者に対して警告をした際に、相手方から提示された公知資料や、権利化後に第三者から情報提供された公知資料も検討すべきです。
 さらに、成立した特許権に関し、明細書の記載が実施可能要件を満足しているか(第36条第4項第1号)、クレームの記載がサポート要件を満足しているか(第36条第6項第1号)、或いはクレームの内容が明確、簡潔になっているか(第36条第6項第2,3号)等についても詳細に検討すべきです。特に、技術的範囲の属否の議論(第70条)については、第36条の実施可能要件やサポート要件と密接に絡んでくる可能性がありますので留意すべきでしょう。

【3】

上記したような事前調査により、特許に無効性がないとの確信が得られれば、そのまま権利行使しても良さそうですが、特許の有効性が疑わしい、ということであれば、訂正審判を活用することが考えられます。
 この場合、訂正審判での訂正要件は限定的となっており、訂正するに際しては、訂正要件を満足すると共に、クレームの技術的範囲に第三者の実施品などが含まれているように訂正する必要があります(クレームを限定して、実施品が技術的範囲に入らなくなるのでは意味がありませんので…)。

 実際に訂正審判を請求するのであれば、その請求書の「請求の理由」において、訂正事項は、減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明であること(第126条第1項)、訂正は、特許請求の範囲、明細書、図面に記載した事項の範囲であること(同、第3項)、及び請求の範囲を、実質上、拡張、変更するものでないこと(同、第4項)を、具体的に説明すれば良いでしょう。

 また、上記した事前調査において挙げられた公知資料については、訂正審判において審判官が独立した特許要件(第126条第5項)の有無を判断する上で重要となりますので、上申書において積極的に情報提供すべきです。この場合、提出する上申書では、訂正した発明について、提供する公知資料を挙げながら、独立した特許要件(第126条第5項)を満たすことについて、証拠を挙げながら対比説明する等で十分と考えられます。

 ※訂正審判を請求することで、第126条第5項に関し、審判官は、積極的に公知文献などを調査すると考えられますが(職権探知)、権利者側の事前調査で入手した公知資料については、調査対象として検索されない可能性がありますので、上申書によって提示すべきです。

 また、審査段階に行った補正が、新規事項であると疑わしい場合、新規事項に該当していないことについて言及するか、或いは、訂正して解消するかを検討した方が良いと思います。訂正できる範囲は限られていますので(第126条第1項)、この範囲内で、新規事項について疑わしい部分を解消することについて検討が必要となります。

【4】

上記したように、訂正審判を請求すると共に、上申書を提出し、その訂正が認められれば、権利行使や交渉の段階で不利益となる事態はかなり軽減されます。仮に、訂正審判で挙げられた公知資料を基本として無効審判を請求されても、特許庁において無効審決がされる可能性は低いと考えられます(既に、審判部において独立特許要件があると結論されており、異なる結論が出されるのは考え難いところです)。また、侵害裁判において、権利は無効である(権利濫用)と主張されたとしても、専門官庁である特許庁において有効であるとの判断が出されている以上、特許に無効理由がある、と判断する可能性も低いと判断できます(ただし、特許庁と裁判所で、無効性の判断について齟齬が生じる可能性はあります)。

【5】

訂正審判は、無効審判と異なり査定系であり、拒絶査定不服審判のように早期審理制度はありませんが、上申書において、第三者が実施行為をしている等を主張し、早期性が必要であることを記載することにより、その審理を早くすることは可能です(無効審判のように第三者が関与しないため、早期に決着する可能性も高いと考えられます)。

【6】

訂正審判を請求して、訂正した内容が訂正要件を満足しない場合、訂正拒絶理由が通知されます。
 権利者側は、これに対して意見書を提出できると共に、場合によっては、審判請求書の要旨を変更しない範囲で補正することができます(この補正については、126条の制限の下、さらに拒絶理由を解消するものであるため、かなり限定されてしまいます)。

 なお、訂正審判は、訂正が認められるか否かが判断されるのであり、特許が無効にされるわけではありません。訂正が認められなければ、補正することなく審判請求を取り下げ、複数回に亘って審判請求することも可能です(法律上、訂正する回数や時期に制限は設けられていません)。

 ただし、侵害訴訟において、被告側から、特許に無効理由があり、権利濫用との抗弁があった場合において、特許庁に対して訂正審判を請求する際には、審理を不当に遅延させたり、迅速な解決を妨げることのないように留意すべきです(平成19年(ワ)2980号等にあるように、訂正の小出しは好ましくないでしょう)。

【7】

平成23年の特許法改正において、無効審判が請求されて無効審決がされた後、審決取消訴訟を提起しての訂正審判請求ができなくなりました。
 このため、無効審判が請求されたときは、その無効審判の手続で、訂正をすべきか否かについて詳細に検討する必要があります。例えば、無効理由の基礎となる公知技術の内容を吟味しつつ、対象製品が技術的範囲から外れないように訂正することを考慮する必要があるでしょう。なお、無効審判の合議体は、「審決の予告」を通知して特許権者に対しては、訂正請求をするための期間が指定されますので、その期間内に訂正請求をすることとなります。

シグマ国際特許事務所