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特許を侵害する旨の通知があったとき

 ここでは、自社で、ある製品を実施していたところ、特許権を侵害する旨の通知書(警告状、通知書、お知らせ、問い合わせ等、表題は様々です)が来てしまったときの対応例や留意点などをまとめてみます(なお、契約等により、警告があったときの対応は仕入先の企業が負う、といったようなケースは考慮していません)。

特許権を侵害する旨の警告状等が来た場合

 特許権を侵害する旨の警告状等が来た場合、その警告状の文面、業種、相手方権利者、実施状況、権利内容などにより、様々な対応策が考えられます。ただ、基本的には、他人の財産権を侵害している(「あなた不法行為をしていますよ」)という旨の通知であることから、それはそれで真摯に受け止めた上での対応を心がける必要があります。

 警告状に対して全く対応しない、或いは、適当にあしらったり、感情的な回答をする等、不適切な対応をしていると、企業価値を損ねたり、将来的に無用な紛争に発展してしまう等の問題が生じる可能性があります。また、そんな問題は、起きてしまってから元に戻すのは、きわめて難しく、かえって時間や費用の無駄になる可能性もあります。

 警告状がきた段階で、しっかりとした対応ができれば、そのようなリスクを前もって回避することが可能でしょうし、将来的にビジネスを展開して行く上で、何らかの利益をもたらす可能性が残ります。

 ビジネスをしている以上、そのような警告状に対しては、しっかりとした対応を行うべきでしょう。

 誰しも、そんな警告状が来ると面白いわけはないのですが、ここは冷静に対応することをお勧めします(感情的になってしまうと、後々ろくなことはありません)。また、相手方から送付された警告状の文面が威圧的で、不快感を感じるようなものであっても、それに合わせる必要は全くありません(脅迫じみたようなものであれば、それはまた別の問題がありますが…)。
 会社としての品位もありますので、そんなものは適当に受け流して、当方側の考え方や対応等につき、適切な表現で回答することをお勧めします。

 また、相手方は、同業者の場合もあれば、自社にとってユーザ(将来ユーザに成り得る者)である場合もあるでしょう。特に、ユーザでもある一般消費者から警告状が来たような場合、たとえそれが言掛かり的なものであっても、回答書では、決して感情的な表現を用いずに(読み手側を不快に思わせない)、毅然とした態度で対応することが肝要です。相手方に不快感を与えてしまうと、何らかのトラブルが発生したり、今後のビジネスの展開に影響を及ぼすことも考えられます。

 回答書は、文書として残ってしまうし、回答者の氏名(通常は、代表取締役の名前と思われます)も記載しますので要注意です。

警告状の表題、文面、差出人などから相手の意図を感じ取る

 警告状がきたとき、まずは、その表題、文面、差出人名などから、相手方の意図をある程度、感じ取ることもできます。

 例えば、表題に関しては、「警告状」「警告書」のようなもの(表現としてきついですね)もあれば、「通知書」や「通告書」「お知らせ」のように多少ソフトな表現が用いられていることもあります。また、配達方法についても、「内容証明郵便」でくる場合もあれば、「配達証明」、「速達」、「通常郵便」等で送られてくることもあります(その他、稀ですがメールで通知されたり、口頭で知らせてくるケースもあります)。また、差出人名に関しては、権利者の代表取締役である場合、或いは、弁護士や弁理士が代理人となっている場合、知財部門の社員(例えば知財部の部長名)であるような場合もあります。
 会社の代表取締役ではない人物(知財部門のトップ等)から送られてきたような通知書であれば、権利者側の経営者サイドが承認する前であるということも考えられますので、直ちに事を起こすのではなく、まずは、こちらの意見や見解を伺っているようにも思えます。

 また、文面に関しても、こちらの製品名を具体的に挙げていたり(詳細に調査したのでしょう)、直ぐにでも差止めや仮処分をしそうな迫力が感じられるもの、或いは、交渉に含みを持たせているもの(実施料の支払い等によって、円満に解決しようとするもの)等があります。

 表題、配達方法、差出人名の部分から、ある程度、相手方の意図を感じ取ることは可能ですが、いずれにしても、適切かつ誠実に応答することが重要となります。
 少なくとも、最初から、「警告状」といった表題で内容証明郵便によって送られてきたもの、そして、弁護士や弁理士の名前が列記されていれば、すでに代理人費用もかかっており、技術的範囲についても十分に検討済みと思われますので、権利者側からすると、かなり重要視している権利と考えられます。こういったケースでは、早急かつ慎重に対応する必要があります。

回答期限について

 一般的に、特許権の侵害に関する警告状等がきた場合、何時までに回答して欲しい旨(通常は2~4週間程度と思われます)が記載されていますので、その期限までには、何らかの回答をするよう心がけるべきです。

 すでに、こちらサイドで権利の存在を確認しており、いずれ来るであろうと予想されていた警告状であれば、当然、その間に、色々な準備ができている筈(?)ですので、期限内に適切に回答することはできるでしょう。

 しかし、ある日突然、予想もしていなかった警告状が来てしまった場合、社内的な事情(内容の検討、各部署への報告、実施状況や在庫数の確認等)に加え、社外的な事情(取引先の確認、外部の専門家の意見を伺う等)など、様々な事情がありますので、権利者側が要求する期限内に適切な回答をすることは困難となります。
 このような場合は、とりあえず、権利者側が指定する期限間際に、「現在、貴社の権利の詳細について確認、検討している(「現在、鋭意検討中」などといった表現が用いられますね)ため、暫時、猶予期間を頂きたく、宜しくご配慮お願いいたします」等、の回答書を送るのが良いでしょう。
 もちろん、本来であれば、相手方が指定した期限内に、こちら側の態度を明らかにした回答をするのが良いのですが、やむを得ないと思います。また、この場合、正式な回答をする期限についても明示しておくべきです。そうでないと、再び相手方から、より厳しい内容の通知書が来たり、円満な解決に支障を来たす可能性もあります。

 実際、この間に取り得る措置を検討し、そして、その検討結果に基づいて、自らが指定した期限内に、回答書(2)を送ることになると思います。
 最初の回答書は、会社の代表取締役名(警告状が自社の代表取締役宛てであればそうすべきでしょう)で、回答書(2)は、弁護士や弁理士が代理人となるケースは良くあります。

 なお、差止めを回避する等の目的(おそらく在庫がなくなるまで)で、のらりくらりと時間稼ぎをする対応策は、あまりお勧めできません。

実際に警告状が来た場合の対応

 では、実際に警告状などが来た場合、どのような対応をするのか、留意点と共に、いくつか例示してみます(もちろん、これに限るものではありません)。

 なお、警告状は、一般的には、代表取締役宛てに来ますので、回答するのは、代表取締役の名前とするのが好ましいといえます。ただ、社内事情や組織形態等によって、実際には、従業員、例えば、知財を扱う部門や総務系部門などの従業員が実務対応して、代表取締役や担当役員等に報告する、といったケースもあるかと思います。そんな事情があるかも知れませんが、ここでは、実際の実務対応者の視点で例示してみます。

(1)権利の内容の把握

 通常、警告状には特許番号が記載されているか、特許公報が添付されていますので、その特許公報、及び特許庁における権利が成立するまでの資料(包袋閲覧とも称します)を入手し、特許請求の範囲に記載されている発明と、自社の製品とを対比して、まずは侵害を構成しているか(技術的範囲に属しているか)否かを判断します。なお、それ以外にも、権利が有効に存続しているか、権利期間はどれ位残っているか等、形式的な確認もしてみましょう(一度に多数年の年金を納めていれば、相手方は結構、意気込んでいると考えられます)。

 この段階で明らかにシロ(当社製品は、特許請求の範囲に記載されている全ての構成要件を充足しない)ということが明確であれば、例えば、「当社製品は、特許請求の範囲に記載された……の構成要件を備えておりませんので、貴社の特許権を侵害するものではございません」と、具体的にシロの部分を明確に指摘して回答書を送付すれば良いでしょう(ここで終結できれば一番良いです)。

 なお、単に「弊社は侵害行為をするものではないと思慮する」等といった漠然とした回答では、その後、相手方と何度も書簡をやり取りする可能性もあり、このような往復の書簡のやりとりは意味もないでしょうし、負担もかかりますので、1回の対応で終結させるのがベターです。不毛なやり取りが続かないように、弁護士や弁理士を代理人として、技術的範囲について明確な見解を示した回答をするのも良いでしょう(製法に関する特許については、こちら側の製法を相手に開示するのは問題があるため、詳細に検討すべきです)。

 ただ、最終的に特許になっている発明との間で、侵害を構成しているか否かの判断が難しかったり微妙である場合、特許請求の範囲に記載されている発明(記載用語やその解釈)については詳細な検討が必要となります(通常、このようなケースが多いと思います)。

 このようなケースでは、例えば、明細書内において、特許請求の範囲の記載用語に対応する部分、発明の目的、及び作用効果、権利が成立するまでの過程、公知技術の存在などを詳細に検討し、「特許請求の範囲の構成要件は、○○○○に照らせば、△△△に限定して解釈されるべきであり、当方の製品は、そのような構成要件を充足しないため侵害を構成するものではない(技術的範囲に属さない)、といったことが、客観的かつ合理的な理由をもって回答できれば良いのです。要は、仮に裁判を起こしても勝ち目が無い、と相手方に思わせるような回答ができればOKです(ここは相手方と見解が相違する部分になりますが、相手方を納得させるような論理が構築できれば良いです)。また、相手方との間で侵害警告の対象が複数あり、双方で警告し合っているような場合、将来、包括的な交渉をする上でも有利になるはずです。

(2)周辺状況の確認

 警告状が来たら、取り敢えず、周辺状況を確認してみましょう。

 ここでの周辺状況の確認は、少なくとも3つ考えられます。

 第1は、警告状に記載されている特許権のみをマークするのではなく、その権利者が所有する周辺の特許(出願中も含めて)にも注意を払ってみるということです。
 警告状を差し出した権利者は、通知してきた特許権を含めて、すでに、ある程度の特許網を構築している可能性があります。例えば、上位概念から下位概念に至るまで、或いは、その周辺技術や変更可能な技術を既に抑えている可能性もあり、敢えて、対象製品と一致するような下位概念特許を用いて警告状を出してきている、ということも考えられます。
 このような場合、安易に設計変更しても、別の網に引っ掛かってしまう可能性もあり、今後の対応が後手後手になったり、経営の屋台骨が揺らいでしまうことも考えられます。権利者が所有する別の特許権等についても、調査しておく必要があるでしょう(なぜ、この権利を使って警告してきたのか等の理由について検討すると、何らかの打開策が見えるかもしれません)。

 第2は、同業他社も同様な製品を販売していないか確認してみることです。このようなケースでは、同業他社にも、同じ権利者から同様な内容の警告状が送られている可能性が考えられます。同業他社の数が多ければ、業界内において、そのような警告状についての問題が顕在化していることも考えられ、例えば、有力な無効理由の情報や対応策などを入手できるかも知れません。

 第3は、警告状の送り主が、製品を製造するような主体者であれば、こちら側が所有している特許権等を侵害していないか確認してみることです。仮に相手方が侵害行為をしているか、そのような蓋然性があれば、警告をすることで、これからの交渉を有利にすることも可能になります。

 なお、相手が、警告に係る特許発明を自ら実施していない(可能性がない)ということであれば、交渉により、実施継続できる可能性はあります。

(3-1)無効理由について

 相手との交渉を有利に進めたい、とか、技術的範囲に属している可能性が高いのでどうしても権利を消滅させたい、ということであれば、その特許について、無効理由を探すことになると思います。適切な無効理由が見つかることで、交渉を有利に進めたり、争いそのものを終結できる可能性もあります(権利者としては、無効審判によって、権利そのものが消滅してしまうことを望んでいない可能性もあります)。

 ただ、無効理由については、専ら公知文献(特許公報など)を調査することになりますが、この調査については、かなり費用がかかってしまう可能性があります(既に特許庁において、一通りの審査が済んでいます)。

 調査に関しては、各種のデータベースや実際の文献から、偶然にも初期の段階で狙った資料をヒットできた、というケースもあれば、その資料をヒットするまでに、非常に時間を要してしまうケースもあり、いわゆる宝探し的な要素を多分に含んでいます。

 調査にかかる費用に糸目をつけない、とか、社内で充分に調査ができる、という環境であれば別ですが、無効理由の調査は外部に委託せざるを得ないような状況にあり、しかも資金的にも余裕がない、等の事情があれば、費用を掛けずに適切な無効理由を探すのはかなり困難かも知れません。

 こういったケースでは、別の手法で紛争を解決できる可能性もあります。実際に係争事件(無効審判事件、取消訴訟事件、侵害訴訟事件)に発展するよりも、例えば、「ごめんなさい」して、実施中止、設計変更、ライセンスの許諾をしてもらう等の方が、それに要する費用(代理人費用)、時間、手間などを考えた場合、遥かにメリットがあるかも知れません。

 一旦、係争事件に発展してしまうと、途中で円満に終結させることは困難になりますので、当事者同士、その前段階で何とか解決を図るのも一考でしょう。

(3-2)無効理由を探す際には、こんなことも考慮してみてはいかがでしょうか?ということで、いくつか例示してみます(もっぱら文献資料です)

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その特許は外国出願しているか否かを調査してみましょう。他国では、拒絶されていたり、或いは、特許されていても、中間処理において多数の公知文献が挙げられ、日本とは異なって、かなり限定したクレームになっている可能性もあります。
無効理由として有力な資料が得られるかもしれません。

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その特許の技術分野に関し、秀でた技術を有する国もありますので、その国の特許文献等を重点的に調査してみましょう。特に、日本法人が存在しているような分野であれば、本社が存在する国に有力な技術文献(日本へ出願していない特許文献等)が存在するかも知れません。

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新規事項の追加等については特に注意してみましょう。これは、権利者側が、出願中、こちらの製品を考慮しつつ、中間処理の段階でこちらの製品を含むようなクレーム補正をしていることも有り得るからです。このようなケースでは、多少、無理な補正をしている可能性もあり、審査官もそのままスルーしていることがあります(人の子ですので…)。

 特に、審査段階で分割出願していたり、国内優先権を主張しているような特許権については、明細書の記載等、原出願との間で、改変された箇所を詳細に検討してみる必要がありそうです。

 自社の製品の販売時期と、相手方が分割(優先権主張)した時期や、補正した時期などを突きあわせると、何か見えるかもしれません。

 確実とは言えませんが、審査段階で一度も拒絶理由がかかることなく、一発で許可されたような特許権は、無効にできる文献が多数検索できることがあります。逆に、何度か拒絶理由がかかったたり、拒絶査定不服審判が請求されたり、更には、無効審判がかけられても残っているような特許権は、無効にするのはかなり難しいです(焼入れされた特許権ともいえましょう)。

(4)実施状況の確認

 既述したように、権利者側の権利の内容について吟味するのと同時に、自社の製品についても、その実施状況を確認する必要があります。

 例えば、実施の開始時期、これまでの販売個数や現在の在庫状況、ロット生産方式であればその発注状況、その製品の今後の見通し(製品としての寿命)、設計変更の可能性など、について確認する必要があるでしょう。

 実施の開始時期によっては、先使用が主張できるかも知れませんし、今後の製品の市場性が明るくない等の見通しがあれば、思い切って実施中止といった選択枝もあります(損害賠償の問題は残りますが…)。

 或いは、それ程、設備等を変更することなく、技術的範囲に含まれないように設計変更が容易にできるかもしれません。また、こんなときは、設計変更する製品について、新たに特許出願できる可能性もでてきます。アレコレ設計変更について検討していると、発明として改良された良い部分が出てくることもありますので留意しましょう(将来的に、相手よりも有利な立場になり得るかもしれません)。

 なお、設計変更する際には、疑義が生じることなく技術的範囲に属さないようにすべきであり、その旨を回答しておくのが良いでしょう。中途半端な設計変更では、終結しない可能性があります。また、その際には、相手方が所有している他の特許権についても留意すべきでしょう。折角、設計変更しても、他の特許権に引っ掛かっては、元も子もありません。

(5)和解に向けて

 既述しましたように、費用、時間、手間を考えた際、実際に訴訟のような係争事件になる前に、解決できればこれに越したことはありません。

 解決する方法としては、当事者同士の和解(和解契約書や公正証書の作成など)、仲裁センターを利用した和解、裁判手続を利用した和解などがありますが、当然ながら、和解交渉を有利に進めたい、との希望があると思います。

 和解交渉を有利に進めるためには、技術的範囲に属さないとの理由に一理ある、実際に無効審判請求すると無効になる可能性がある、等が交渉材料になると思われますが、それ以外にも、相手方の実施品目を検討して、こちらが所有する特許権を侵害している可能性があれば、それも交渉材料になり得ます。また、どうしても技術的範囲の属否について双方に歩み寄りが無い場合や、無効理由について双方に見解の相違があるような場合(双方ともに自分にとって有利な鑑定書があるような場合等)は、埒が明きませんので、第三者の機関(例えば特許庁の判定制度)によって、技術的範囲の属否を委ねる、などの方法も有り得ます。

 なお、書簡による交渉が決裂するような場合、例えば、無効になる蓋然性が高く、その旨を回答書において指摘したにも拘らず、相手方が一方的に強気な交渉をしてくるのであれば、それはもう無効審判を請求せざるを得ない、という状況になるかもしれません。
 ただ、実際に無効審判を請求する、という結論に達したのであれば、それは双方にとって手間や費用もかかることであり、権利者サイドとしては権利そのものが消滅してしまう可能性もありますので、とりあえず最後通牒として、「無効審判を請求せざるを得ない状況となりましたので…」、といった内容の回答書を送付するのが紳士的な対応ともいえます(この段階になって相手方が折れる可能性も有り得ます…)。

シグマ国際特許事務所