開発のネタ探しについて
ここでは、シーズ情報やニーズ情報などからアイディアを膨らませて新製品を考え出すこと、についてあれこれ考えて見ます。
発明発掘する上での契機付け
例えば、企業の経営者が「当社の技術分野に関し、皆さん何でもいいですから発明して下さい」と言ったところで、効果的に発明が生まれてくるとは考え難いところです。
「いやぁ、発明しろって言われてもなぁ。なにを考えればいいの?(無関心)」、「そういう難しいことは誰かがやるんじゃないの(他人まかせ)」等の声があがるかもしれません。また、ある程度、その企業に在籍した従業者や年配の従業者等であれば、自分のアイディアを他人に披露することに対して気恥ずかしさがあるのかもしれません。
知財担当者に限定されることはありませんが、初めの第一歩となる発明の着想に関して、何らかのきっかけ作り(従業員にとって、発明し易い環境の構築)を行なう必要性があるでしょう。
ところで、発明は、
- (1)
- 課題(従来技術の問題点)を見出すステップ
- (2)
- その課題を解決するための手法を考えるステップ
の段階を経て完成していきます。
上記(1)のステップは、着想する(考え出す)というよりは、むしろ、「発見」や「気付き(人から伝聞したものもあるでしょう)」といった要素が大きいと考えられ、いわゆるシーズ情報やニーズ情報が該当します。
例えば、携帯電話が出回り始めた頃、携帯電話は棒状な形状となっており、筐体の表面に操作ボタン、液晶画面が配置されていました。ところが、このような携帯電話をハンドバックやカバンの中に入れておくと、操作ボタンが勝手に押されてしまったり、液晶画面の表面に傷が付くといった問題(解決すべき必要がある課題)が生じてしまいます。このような課題は、「発見」、ないしは「気付き」であり、このような課題((1)のステップ)が提示されることで、次に、「その課題の解決手法を考える」、というステップ((2)のステップ)に移行します。
(2)のステップは、一概に断定はしませんが、個人個人が有する知識、経験、学習(実験等を含む)によるところが大きく、それにより解決手法も大きく変わってくるはずです(一つの課題を提示しても、人によって解決手法は異なってきます)。
例えば、家電製品等で見られるチャイルドロックを知っている人であれば、特定のスイッチ操作によって全ての操作ボタンの動作を無効化する、という解決手法に行き着くかもしれません。或いは、透明カバーに関する技術を知っている人であれば、液晶画面に透明なフィルムを貼り付ける、という解決手法に行き着くかもしれません。また、これらを組み合わせることで、操作ボタンが勝手に押されてしまう、及び液晶画面の表面に傷が付く、という2つの課題を同時に解決する手法に辿り着きます(3人よれば文殊の知恵)。或いは、従来から存在する化粧品のコンパクト等にヒントを見出した人であれば、筐体自体を「折り畳み式」にすれば良い、という解決手法に行き着くかもしれません(この解決手法は、上記の2つの課題を同時に解決する手法となります)。
上記(1)のステップと(2)のステップは、必ずしも同一人物によって成されるべき必然性はありません。例えば、経験値や知識が豊かな人に、何らかの(1)の課題を提示することにより、たやすく発明が完成することも可能です。
また、ある人にとって、元来、発明完成は不可能であった筈であるのが、(1)の課題を提示することで発明が完成してしまうケースが生じることも有ります。例えば、育児経験のない人にとっては、乳幼児を乗せてベビーカーを操作することはありません。従ってこのような人にとっては、「ベビーカーのハンドル位置は高さが固定されているため、背の高い人は操作し難い」といった類の課題を見出す(気付く)ことは想像し難いところです。ところが、このような課題を提示することで、たとえ育児経験がない人であったとしても、「伸縮機構を用いてハンドルの高さ位置を調整自在にする」といった課題解決手法に辿り着くことも可能となります。
発明完成の第1ステップとなる課題(シーズ情報、ニーズ情報)については、例えば、企業であれば、様々な部署(顧客先からの要望を知りやすい立場にある営業関係の従業員、或いは、顧客からのクレームを処理するクレーム対応部署の従業員など)は勿論、それ以外に、各種メディア(TV、業界紙など)、WEB情報(掲示板などもありますね)、特許公報などから見出すことが可能です。要は、アンテナの感度の問題となり、「発見」、「気付き」の世界となります。
また、完成した発明が新たな課題を生むこともあります。例えば、上記した事例で、携帯電話を折り畳み式とした場合、ヒンジの構造を工夫しないと強度的に好ましくない、とか、開いたときに耳の位置で固定できないため音が聴き難い、等の新たな課題が生じ得るのであり、この課題の解決手法を更に考えることで周辺発明が生まれます。
課題情報(ニーズ情報やシーズ情報)を上手に拾い上げてこれを共有化したり蓄積するシステム、手法など、社内環境を整えることで、発明が生まれ易い環境を構築することが可能になります。
ところで、上記した(2)の課題を解決するための手法を考えるステップに関しては、上述したように、個人個人が有する知識、経験、学習(実験等を含む)によるところが大きいのですが、それを具体的に体系化したものとして、TRIZ(発明的問題解決理論)という手法があります。このTRIZは、過去における多数の特許を分析し、課題に対する具体的な解決手法をDB化したものであり、ある特定課題の解決策を、過去の課題解決事例から導き出すという手法です(かつて、そのようなソフトが市販されていたと記憶しますが、現在は定かではありません)。また、TRIZに似た手法として、特許流通促進事業のHPにおいて、ある課題を特定すれば、その課題を解決する具体的な解決策を検索できるシステムが紹介されています。
これらについての詳細は省略しますが、とりあえず、このような課題解決手法が存在している、ということを覚えておいても損はないでしょう。
発明を発掘することは、知財担当者、及びその発掘に従事する人(リエゾン)にとっては、とても難しい業務であると考えられます。各企業の社風、技術分野、人材、製造設備など様々な環境要因があり、当然ながら標準化された手法など存在するものではありませんが、少なくとも以下の点については間違いありません。
年間の特許出願件数が多い企業では、発明者が多々存在しますが、そのような発明者であっても、最初から発明能力に長けていた、ということではありません。普通に学校を卒業して入社した人、入社時は技術開発と全く関係ない部門にいた人等、発明者は多種多様です。勿論、本人の発明に対する勤勉意欲(関連技術に関する各種情報の収集、蓄積、特許公報の読み込み等)も重要ですが、発明し易い環境を構築することで、意外な従業者が素晴らしいアイディアを着想することも有り得ます。
※特許公報については、最新のものでも1年6ヶ月前の情報となります。クレーム情報やWEB情報の方が開発ネタを集める点では効果的と思います。
※小売店などから得られるクレーム情報については、同業他社にも伝わっている可能性がありますので、速やかに行動する必要があるかも知れません(課題を解決する手法については、似通ってしまうケースもあり、タッチの差で負けてしまうことも有り得ます)。
どちらを選ぶか?
その企業のユーザが主に一般消費者である場合、社外の一般人から、様々なアイディアが投稿されるケースがありますが、外部アイディアの取り扱いについては、様々な問題を含んでいます。
知財関係を扱う担当者としては、発明発掘に関連して、社内とは別に、外部提案(社外提案)を受け入れることは、多数の人からアイディアが入手できるため手っ取り早い、と考えるかも知れませんが、外部提案の取り扱いについては、幾つかの問題点があります。
「私は、○○のような商品があれば非常にありがたいので、是非商品化してください」といったような純粋な要望提案であれば、まだ良いのですが、下心のある外部提案(このようなケースが多いと思われます)については、その対処に困るところです。特に、「著作権登録済み」とか、「推薦状」などが添えられているケースでは、その投稿者は、その企業が実施した際に、ロイヤルティ等と称して何らかの対価を受けることを期待している筈です(注;ロイヤルティは、他人の特許権等の実施の対価として支払われる実施料です。単なるアイディアの投稿者(発明者)や、全く法的効力を発しない「著作権登録」などにロイヤルティを受ける権利がある、との主張に法的根拠はありません)。
外部提案を受け入れることを積極的に推奨し、外部提案全てに対して、取り敢えず何らかの回答(実施できない旨の理由など)をするのであれば、恐らく、その回答業務だけでかなりの時間を要するでしょうし、現実問題として、外部提案の中に実施を一考させるような有益なものは極めて少ないと考えられます。
また、仮に、有益なものがあったとしても、その取り扱いについては、将来的に争いの火種になり得ることから留意が必要です。例えば、予め特許出願して、そのアイディアを法的に保護しようと考えるのであれば、投稿者から、特許を受ける権利を譲渡してもらう等、契約に関する手続が必要になるでしょうし(勝手に特許出願すると、いわゆる冒認出願として、将来的に拒絶、無効の原因になる可能性があります)、特許出願人を誰にするか等、投稿者との間でトラブルが生じる可能性もあります。また、特許を受ける権利を譲渡してもらう際、投稿者との間で、金一封等で片付けば良いのですが、実施した際のロイヤルティ等と称して(上記のように、投稿者のこのような主張は誤りです)、金銭等を要求され、予期せぬ係争事件に発展してしまう可能性もあります。
或いは、投稿されたアイディアの内容が今一歩であるため、企業側で何らかの工夫を加えたいと考えるケースも有り得ますが、その取り扱いについても微妙な問題が生じ得るでしょう(例えば、投稿者はアイディアを盗用した、といった類の主張をするかもしれません)。もちろん、特許出願等することなく、単に実施して、外部提案者に対して礼状などを出すことも考えられますが、実施に際して金銭等の要求を考えている外部提案者との間では、何らかの争いが生じる可能性を考慮しておかなければなりません。
さらに、自社に研究開発部門があるようなケースでは、思わぬ事態を招く可能性があります。例えば、上記した携帯電話の事例において、自社で、それまでに存在していなかった折り畳み式のものを着想して、特許出願等をすることを準備していたときに、同様のアイディアが外部提案として投稿されてしまうと、その対処に頭を痛めることになるでしょう。市場動向に伴うニーズや解決すべき課題が顕在化することで、同種のアイディアが同時期に出てくることはよくあることであり、仮に、上記した事例において特許出願等をすると、「私のアイディアを勝手に盗用して特許出願された」等とクレームが付けられる可能性もあります。
企業における外部提案の受け入れについて、ここでは、その良し悪しを結論付けることはしませんが、少なくとも、その取り扱いについては、将来的に争い事が発生する可能性を排除しておく必要があります。例えば、「社外からの提案については一切受け付ない」、「特許出願したもののみについて検討する」、「特許権を取得したもののみについて検討する」、「特許出願していないアイディアに関し、有効と考えられるものは、一時金等と引き換えに特許を受ける権利を譲渡して頂く」等、その取り扱いを明確化しておいたり、自社のHP上で告知しておく等の手段を講じておくことが必要かと思います。「当社は、社外からのアイディアは一切受け付けておりません」といった企業のポータルサイトを見たことがありますが、取り扱いについて充分検討されているようです。
市場で売れている製品の模倣等について
非常に安易な手法として、自らアイディアを着想することなく、市場で売れている製品を模倣する、と考えるケースもあるかも知れません。
一般的に、そのような製品は、新規参入を阻止すべく、特許権、意匠権等によって法的に保護されている蓋然性が高く、また、不正競争防止法に基づいて権利行使される可能性もあります。
同業者が製造、販売する完成品を製造原価が安い第三国に持ち込んで、同様な製品を作らせ、それを輸入して国内で販売すれば高利益が期待できる、と考えても、正当な権利者から法的な攻撃を受けることは必至であり、単に模倣等することにメリットは見出せません。また、模倣品を製造、販売する会社の社会的評価、企業価値が高いとも考えられません。
「上達するには模倣から」と考えるかも知れませんが、そのような模倣品を作る前に、少なくとも、特許出願等されているか、権利が成立しているか等を調査すべきであり、たとえ類似するような製品であっても、他社の権利に抵触しないような製品作りを心掛けるべきでしょう。
未利用特許について
当初から、新たな製品の研究、開発が困難である場合、第三者からライセンスを受けて新規な製品を製造することも選択肢の一つです。現在、利用されていない特許(いわゆる未利用特許)は90万件あるともいわれており、そのような未利用特許を開放する市場も整備されています。
自社の業務内容、販売ルート、クレーム対応、メンテナンス対応などを考慮する必要もありますが、比較的ハードルが低い状態で、新規製品を製造することも可能であり、それに付随して、新たなアイディアが生まれる土壌ができる、開発能力の向上が図れる、特許公報を読み込む習慣ができる、知財能力の向上が図れる等の効果も期待できそうです。
ただし、未利用特許の開放市場における特許情報には、
- 1.必ずしも権利化されていないものもある
- 2.特許になっていても市場性(売れるか否か)については詳細に検討する必要がある
- 3.容易に権利回避できたり無効理由が存在しており、元来、ライセンス料の支払いをすることなく実施できる技術である
- 4.関連技術の移転、指導として、別途技術移転費用が発生する
等、様々な問題をはらんでいますので、専門家と相談することをお勧めします。
発明者への報酬について
企業としては、従業者から良い発明が継続的に生まれるような環境になることが好ましく、そのような環境が構築できるように、従業者との間で職務発明の取り扱いについては規定を設けるべきでしょう。昨今の従業者発明に関し、企業側と元従業者との間で、職務発明に関する対価等で訴訟案件が増えていることからも、将来的にそのような訴訟が提起されないような取り決め、管理も必要です。また、職務発明について対価が受けられるような規定があれば、従業者としても発明意欲が向上するでしょうし、企業側としても、発明意欲が向上して良い発明が生まれるようになり、収益の向上が図れるようになるでしょう。
通常、職務発明について、従業者との間でどのような規定にすべきかは、企業規模、市場規模、研究開発費、宣伝広告費等、様々な要因があるため、一概に特定することはできず、企業毎に大きく異なっているようです。また、その発明が特許を取得したことによって得られる利益を明確に測定することも困難でしょう。
一律方式、売上考慮方式、これらの組み合わせ、報酬に上限を設ける、青天井にする等、様々の方式がありますが、要は、従業者の成した発明によって企業側が受けるメリットと、従業者の貢献度、発明意欲を減退させないこととのバランスの問題に帰結します。職務発明の規定がなければ、取りあえず、その規定作りを考慮すべきでしょう。



